「翡翠!」
「ようへい!」
あの時、主に差し伸べた手は、もう少しのところで届きそうだった。
守ると誓った主君と離れることなどあってはならない。
1センチに満たないようなわずかなその距離がもどかしかった。
主を捕まえるため、自身の助けとなるものがないか、陽平は周囲へ視線を走らせる。
見えるのは、小型艇から投げ出され、分散していく仲間たちの姿。
いち早くチームとしてまとまったのは、トーコたちウィルダネス組のようだ。ラシュネスたちロボット3人が肩を組んでまとまり、宙での自由がきかないユーキとイサムを保護している。トーコは、手近にいる者たちを、ロボットの手のひらに誘導していた。
その他のチームも、自分たち忍軍を除けば、チームごとでまとまっているらしい。
「翡翠! もう少しだ、がんばれ!」
陽平の声に少女は、懸命に手を伸ばしてくる。その顔には、不安と恐怖がにじんでいた。
幼い主にそんな顔は似合わない。1分1秒でも早く、翡翠の手を取って、その表情を安堵ものに変えてやりたかった。しかし──伏兵は以外な所から現れる。
「陽平―っ! これ、持ってって!!」
「ンげぃんっ?! 」
何かカタくて重い物が、思いっきり横っ面を張り飛ばしてくれたのだ。
その物体のせいで、姿勢が大きく崩れ、結果として翡翠から大きく離される形になってしまったのである。
「てめぇ! ユーキぃっ!? 何してくれやがる!?」
物体を放り投げたのだろうウィルダネス組最年少の少年を、鬼のごとき形相で睨みつけたが、彼と自分との距離はずいぶん開けたものになっていた。
ごうごうと唸る風の中では、ユーキが何を言っているのかも聞き取れない。ただ、唇の形から「こっちにはねーちゃんやグレイスがいるから大丈夫!」と言っていることは分かった。が、何が大丈夫なのか、陽平には分からない。
というよりも、陽平が大丈夫じゃない。はったおされた横っ面がジンジンしている。
「てめ、チクショ……! 後で覚えてやがれ!!」