泣き疲れて眠るレオナを背中に背負ったまま、月刊GDのベテラン記者&新人記者の取材は続く。当人たちが危惧したとおり、取材する側であるはずのと理佳までもが、他社の記者やテレビの取材陣からお話を伺いたいのですが……と声を掛けられていた。 「そうしていると、まるで親子みたいですね」 「え!? いやそんなちょっ……!」 顔を赤くし、目に見えてうろたえる理佳だったが、 「こんなデカイ娘、2人もいらねえ……」 は、あからさまに不満そうな声でぼやくのであった。 〜 レイスター 編 〜 「Hey! Mr. !!」 やたらと流暢な発音の英語が聞こえ、理佳はぱちぱちと瞬きをした。海外の雑誌社の人間なのかと思い振り返ると── 「B社きっての凄腕gunman……おっと、gunladyが取材されに来てあげたわよ!」 両手を腰に当てて、陽気な笑い声をあげるのは、銀ぴかの鎧に身を包んだB社のレイスターである。ファン感謝祭のため、試合とは違った、日常の姿を見せているドールが多い中、レイスターは今すぐにでもリングに上がれる状態のようだった。 「取材されにって……まあいいけどな」 ずり落ちてきたレオナを背負いなおし、は内心で大きなため息をついた。GD業界の最大手であるB社とC社には、それぞれ別の記者が取材を担当しているのである。 その理由は簡単。B社とC社のGDは、よく言えば個性的。悪く言えばアクが強すぎるので、新人の理佳が取材するのは荷が重すぎるとデスクが判断したためである。 そんなこととは知らない理佳は、名刺を取り出し、 「初めまして!」とレイスターに挨拶を始めている。 「Oh! Nice to me to you!」 名刺を受け取ったレイスターは、にっこりと笑い、理佳と握手をした。 「あの……不躾とは思うんですけど、その恰好は……?」 分かりやすくてとても助かるんですがとフォローはしているが……これは、新人だからできる芸当といえよう。 試合と同じ姿で感謝祭に参加しているGDは少ない。基本的にノーマルボディを持っている者は全てそちらに換装しているようだし、ナーガのようなタイプのGDもオフの時の姿をファンに披露していた。 そういう意味では、レイスターのこの姿は目立っているし、理由が気になるのも自然のなりゆきといえる。 が、直接たずねられるかというと、別問題だ。 自分では、こんな風に尋ねるなんてことは絶対にできない。これは案外大物になるかも知れないなと、は理佳を見る目を少しだけ変えた。 「カンタンよ。私はまだJapanに来て日が浅いわ。トーゼン、私のことを知らないfanも多いはず」 気を悪くされないでよかったと、はほっと胸を撫で下ろした。 「そこで、私は考えたのよ! 私が私だって分かるstyleで、参加すればよいってね! さすが私! coolじゃない! 日本語でイケてるって言うんだったかしらね?」 アハハハとアメリカ帰りらしい、陽気な笑い声を上げてレイスターは自画自賛中。 有頂天になっている彼女は、記者2人が困惑した様子で眉を寄せていることに全く気づいていなかった。 「……レイスターのことを知らないGDファンがいるとは思えないんですけど」 「来日早々、強烈な印象が残る試合を立て続けにやってくれたしな」 レイスターの様子を伺いつつ、理佳とは、ぼそぼそと言葉を交わす。 「ですよねえ」 何せAシリーズを覚えていなかった理佳が覚えているくらいである。彼女の日本リーグ初戦「レイスター&オブシディアンVS薫君&シュティール」のカードは色んな意味で印象深い。それから何試合か間に挟み、同じB社に籍を置く小町と対戦している。 「っていうか、私たち担当違いなんですけど、良いんですかね?」 「担当が違うからって、逃げるわけにもいかねえだろ」 記者2人がぼそぼそと話していても、レイスターは全く気づかない。いつの間にか、アメリカ時代の武勇伝をぺらぺらと語り始めていた。 得意絶頂で語っているレイスターには悪いが、話を聞かされているのはプロの記者なのである。特にのGD記者生命は、GDの歴史と共に始まったようなものだ。当然、海外のリーグについても詳しい。なので、彼女が語る数々のエピソードがいろいろ脚色されていることはすぐに分かった。 「えーっと……その何だ……」 「あの……なんか回りと距離を置かれちゃってるんですけど……ッ!」 今にも泣きだしそうな顔で、理佳は周囲を見回している。周りにいる人たちは、目を合わせないように、そそくさと去って行く。 記者2人がちょっとした生け贄気分を味わっていたとき、そこへ天の助けが現れた。 「ちょっと! いい加減にしなさいよね、エセ外人!!」 レイスターと同じB社に籍をおく、黒曜の姫オブシディアンである。試合では、黒いフリルやレースをあしらったワンピースを着用している彼女だが、今日の感謝祭では白のブラウスにチェックのジャンパースカートを着ていた。フリルやリボンがあしらわれたゴシックロリータ風のデザインは相変わらずだったが、試合とはまた雰囲気が変わっている。 「No! 誰がエセ外人よ!? 私は正真正銘America帰りよ!」 「ハ! アメリカから追い出されたの間違いでしょうが!!」 レイスターの反論をものともせず、オブシディアンは即座に言い返す。図星をさされたのか、レイスターはぐっと言葉を詰まらせた。 「全く……ノーマルボディのない連中ならともかく、ノーマルボディがあるくせに感謝祭に試合用の恰好そのままで来るなんて、信じられないわ!」 オブシディアンは、大げさな仕草で嘆かわしいとため息をついてみせる。 「彼女の意見、間違いじゃないが正解でもないよな」 「そうですよね」 リング上の姿を間近で見てみたいというファン心理とリングとは違う姿を見てみたいというファン心理。どちらを優先させるかは、それぞれのGDが判断するところである。 黒曜の姫の言い分に、レイスターは先ほど理佳に聞かせたことと同じことをオブシディアンにも言った。 「私のniceでgoodなfan serviceよ!」 「つまり、あんたは試合と同じ恰好じゃないと気づいてもらえないくらい、マイナーな存在ってわけね。薫のやつと違って」 薫というのは、C社所属のGD、薫君のことである。彼女が日本リーグに移籍してから間もなく、レイスターも日本リーグへ異動している。また、レイスターは薫君のライバルを自称しているのだ。話題が彼女のこととなると、レイスターは目の色を変える。 「What?!」 「あぁ、薫君はゴシックパンクを着ていましたね。すっごく良く似合ってましたよ」 ぽんと手をうつのは理佳だった。雅様や麗と3人で、たくさんの女性ファンに囲まれていましたよと、火に油を注ぐような発言をする。 「Oh my god!!」 「自称ライバルは、大変ねぇ」 お〜ほほほと高笑いをしつつ、オブシディアンはこの場から去ってゆく。 レイスターは悔しさからか、プルプルと体を小刻みに震わせていた。 「結局何しに来たんだ、オブシディアンは?」 「さあ?」 遠ざかっていく黒曜の姫の背中を眺めつつ、記者2人は蟹歩きでレイスターから遠ざかっていった。 「薫のヤツ……! 次は次こそはッ…………!」 悔しげにぎりぎりと奥歯をかみ締めるレイスターへ声をかける勇気のあるファンは、現れなかったとか……。 |