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オリジナルブレイブサーガSS
労働のススメ



 暦が師走に入ったためか、ラストガーディアン内も、どこかそわそわと落ち着きのない雰囲気が漂っていた。
 クリスマスという今年最後の一大イベントを控え、一部のクルーは殺気立っているとかいないとか。艦内の一部施設では、クリスマス用のキャンペーンをささやかながら企画している所もある。
 さて、それはさておき、艦内の郵便物を一手に引き受ける郵便部にも、師走の影響はわずかではあるものの確実に及んでいた。
「今日は休みのはずでしょう!?」
 ずいずいと郵便部の外に押し出されたのは、郵便戦隊の隊長白神葉月である。彼女を押し出しているのは、緑川弥生だ。おだやかにほほ笑んでいることのおおい弥生にしては珍しく、浮かべている表情は険しい。
「そうだけど……卯月が急に休みを取ることになったんだし、3人じゃキツいでしょ?」
「だからって! 葉月はここしばらく休みなしで働いてるじゃないですか!」
「そうそう。葉月ちゃんに倒れられちゃ、あたしたちが困るもん。ダイジョーブ! 一日くらい何とかなるって」
 ここは絶対に通さないから。
 ツインテールの小娘、桃井皐月は郵便部の入り口に陣取って通せんぼ。葉月を中に入れまいと、必死である。
「でも──」
 何とか郵便部業務に係わらせてもらおうと、葉月が口を開きかけたその時だった。
「どうかしたのか?」
「何かトラブルでも?」
 ドリームナイツの大神隼人と 田島謙治が、何事かと目を丸くしてこちらへ近づいて来る。
「えぇと、何でもないのよ。ちょっと、仕事のことでね──」
 これが苦労性と言われる所以か、葉月は下がり気味だった眉尻を持ち上げ、にこっと笑って見せる。
 一方、弥生は「うふっ」と心底嬉しそうな笑みを一瞬だけ浮かべて消すと、二人に向かって艶やかにほほ笑みかけた。
「二人とも、もう少し早く来てくださらないと」
「は?」
 彼女の背後に花の山を見た隼人と謙治は、きょとんと目を丸くする。
「葉月、本当に大丈夫ですから、休んでください。実は、卯月が休むと聞いてすぐに、こちらのお二人にお手伝いを頼んだんです」
 ね? と同意を求められても、手伝いなんて初めて聞く話だ。手伝うことに異存はないが、せめて事情を聞かせてもらいたいものである。
 ちょっと待ってくれ。
 隼人が、弥生の言にストップをかけるよりも、トロ臭そうに見える弥生の方が早かった。
 後ろ手に持ったカッターナイフの刃を、ちきちきと出しながら、
「手伝って、下さるんでしょう?」
 肩越しに振り返る。
 そのカオは、天女か菩薩か、はたまた悪魔の微笑みか。くすくすっという笑い声が、何とも言われぬ恐怖を誘う。
 隼人と謙治も、思わず一歩下がっている。
「出た。弥生、必殺の微笑落札」ぼそ。
 別名、閻魔の最終判決(ちなみに、名付け親は赤沢卯月)。傍から見ていても、冷たいものがひやりと背筋を駆け抜ける。
 皐月は思わず、ぶるっと肩を震わせた。
「……あ、あぁ」
「…………はい」
 返事が返るまでに間があったのは、二人とも何かと戦っていたのだろうと推察された。
「ほら! ね? だから、大丈夫」
 再び背中に花を咲かせて、弥生が笑う。
「そ、そう……ね」
 葉月は小さく息をつくと、隼人と謙治に向かって深々と頭を下げた。
「それじゃあ、申し訳ないけれど、今日一日、よろしくお願いします」
 事情はほとんど分からなかったが、ここまでされると、一つ頑張ってみるか、という気になってくる。
「ああ」
「分かりました」
 ぺこぺこと米つきバッタのように頭を下げては歩き、歩きだしてはまた頭を下げる、ということを繰り返し、葉月は郵便部から遠ざかって行く。
「葉月ちゃん……大丈夫かなあ?」
 リーダーが消えて行った方向を眺めながら、皐月がつぶやいた。
「大丈夫。このお二人がお手伝いしてくれるもの。安心して休めるわよ」
 凶器のカッターをポケットにしまい、弥生は笑う。
「そっかあ。そうだよね。隼人くんも謙治くんも、頼りになるもんねっ。さあ、どうぞ」
 皐月に促され、少年たちは乗り掛かった舟だと、郵便部の業務部屋に入って行った。
「えぇと、事情を話さないといけませんね」
 ぽむっと手を打ち、弥生はにっこり笑う。
「あのね、葉月ちゃんたら、今日はお休みなのに『今日も一日ガンバロ〜!』って出て来たのよ。だからね、二人に手伝ってほしいの」
 訳が分からない。
 助けを求めるように、隼人と謙治は、弥生に顔を向けた。弥生は困り顔でもう一度ため息をつくと、
「今日は、葉月以外の全員が出勤予定だったんですけれど、卯月のお父様が腰を痛めてしまわれたようで、様子を見に行きたいからと、彼女が休みをとったんです」
「なるほど。それで、白神さんが休日なのに出勤して来たというわけですか」
「えぇ。普段なら、休みを振り替えれば済む話なんですけれど、葉月ときたら、ここ2週間ばかり休みなしで働いてるんです」
「それで、休んでくれと言っていたのか」
 隼人の確認に、弥生はその通りだとうなずいた。
「ところで、青木さんはどちらに?」
 今の話からいくと、青木神無は出勤のはずである。時計の針は間もなく、9時を示す。
「いつものパターンからすると、そろそろ出勤してくるはずなんですけれど──」
 弥生がそう言った直後、郵便部のドアが開かれた。
「……おはよ」
「神無ちゃん、おっはよぉ〜!」
 噂をすれば何とやら。ドアを開けて部内に入って来たのは、青木神無であった。
「……今日も無駄に元気だな。小動物」
「え〜? そんなことないよぅ」
 皐月は照れ臭そうに身をよじる。
 そこは照れる所なのだろうかと、手伝い二人が首を傾げた。
「ところで、コレがどこの備品か、心当たりはないだろうか?」
「どれです?」
「コレだ」
 弥生の問いかけに応じて、神無が背後から取り出して見せた物。それは店頭などで時折見かける、小さな黒板であった。そこには、本日の日替わり定食とかAランチBランチなんて書かれている。
「……それ、食堂の備品じゃないのか?」
 黒板を指さして隼人が答えた。
「あぁ、そうですね。見覚えありますよ」
 しげしげと黒板をのぞき込みながら、謙治も同意してうなずく。
「そうか。食堂の備品だったか。では、返して来よう」
 無表情のままうなずいた神無は、
「すまないが、荷物の受け取りの方は頼む」と、同僚に指示を出し、郵便部から出て行った。
「……時々備品がなくなることがあると聞いたことがありましたが──」
 犯人は、青木神無だったのか。
 謙治が聞いた噂によると、行方不明になった備品は、おかしいな? どこに行ったんだろう? と首を捻りながらも作業に従事しているといつの間にやら戻って来ているという。
「しかし、あんな物をなんだって?」
 隼人が真っ当な疑問を口にする。
「酔っ払いに理由を求めるだけ無駄です」
 随分はしょった説明ではあったが、弥生が言わんとしていることは察することができた。
「そういうことですか……」
「そーなの。あははははは」
 郵便戦隊のよくある日常の一コマである。


*****


 隼人と謙治が、郵便戦隊に捕まってしばし後。こちらはサロン室である。
「わ〜、見て見て。これ、キレイだよね♪」
 年の近い女のコたちが集まって、雑誌を片手にあれこれと話していた。もちろん、話題の中心は間近に迫ったクリスマスをどう過ごすか、ということである。
「どれどれ? わあ、ホントだ」
 エリス=ベルことエリィが、示したのはとあるタウン雑誌に書かれてある記事の一つ。
 某テーマパークで、24日と25日の二日間、一日五千組限定のクリスマスイベントが開かれる、というものだ。去年参加した人達は「最高でした」「素敵でした」「また来たいです」とベタ褒め。
 記事には、大きなデコレーションツリーがきらびやかに掲載されている。
「あぁ、それね……」
 エリィが示した記事をのぞき込んでいたドリームナイツの橘美咲の頭の上から、神楽崎麗華ものぞき込んで来て、一緒になって記事に目を通す。
「知ってるの? 麗華ちゃん」
「まあね。チケットは発売開始30分で完売したらしいわよ」
 こんなところでクリスマスを過ごせたら、ステキだろうなあ、なんて話していた少女たちはがっくりと肩を落とした。
「大体、五千組というのが少なすぎるのよね」
 あそこの規模なら、その倍は軽いはずなのにと、麗華が唇を尖らせる。
「……麗華ちゃん、詳しいね」
 美咲の純粋な感想に麗華は、ぎょっと目を見張った。驚き顔は一瞬の内に消えうせて、
「ちょっと、小耳に挟んだだけよ」
 コホンと小さく咳払い。美咲はその説明に納得してくれたが、エリィまではごまかせない。
「何かしら?」
「べぇっつにぃ〜」
 にまにまと笑っているエリィを麗華は軽くにらみつけてみるが、そのくらいでへこたれてくれる彼女ではない。
「残念だったねぇ」
 と、訳知り顔で何度もうなずいていた。
 神楽崎麗華、珍しい失態である。


*****


 戻ってこちらは郵便部。
 隼人と謙治は、全国の皆さんから届けられた感謝の手紙や応援メールに目を通し、スクラップブックに張り付けていく、という作業を黙々とこなしていた。
「沢山あるんですね」
 作業の手を止めて、謙治はため息と共に、机の周辺に置かれた手紙入りのダンボールを見つめる。
「今日なんてまだ少ない方ですよ。大きな事件を解決した直後となると、まるで無限地獄にいるようですから」
 くすくすと笑みをこぼし、弥生が答えた。
「これを全部、目を通してるのか?」
「いちおーね。でも、ナナメ読みだし、キタナイ字の手紙は読み飛ばしちゃったりすることもあるんだあ。気持ちがこもってるのは分かるんだけど、やっぱり読めないものは読めないからあ」
 だから、真面目に文面を読みこまなくても、いいんだよと、皐月は笑いかける。
「そうは言ってもな……」
 色んな思いが込もっていると思えば、適当に読み流すのは失礼だと思う。隼人が言うと、
「それは君たちが初体験だから、そう思うんだろう。毎日毎日やっているとな、どうしても事務的になってしまうんだ」
「う〜ん……それは、あるかも知れませんね」
 差出人の住所録をデータベースに入力している神無は、画面から目を離そうともしない。
 謙治はそんな彼女を視界の隅におさめながら、静かに唸った。
「サロン室に手紙のスクラップブックが置かれていることは知っていますけど──僕らは、あまり見に行かないんですよね」
「隼人くんも謙治くんも、忙しいんだよね。だったらしょうがないよ」
 そんな人達のために、郵便戦隊は、土曜のお昼に手紙の読み聞かせをしているのである。
「聞いているだけよりも、実際にこうして手にとってみた方が、手紙を書いた人の気持ちがダイレクトに伝わって来る気がするな」
「でしたら、おりを見てサロン室にも足を運んで見てください。一人でも多くの方に見ていただけると、私たちも嬉しいですから」
「そう……だな」
 弥生の言葉に、二人は頷き返す。
「……ところで、今更なんだが、君たちは何故ここにいるんだ?」
 画面から目を離した神無は、さも不思議そうに問いかけてきた。
「神無ちゃん、遅すぎ」
 皐月にまで呆れられるのは、かなり屈辱っぽい。神無はむぅと低く唸った。
 弥生は大きなため息をついてから、一連の事情を説明する。隼人と謙治は、驚きと呆れがごっちゃになってしまって、何の言葉も出てこなかった。
「ふむ……そうなのか……」
 弥生から説明を受けた神無は、腕を組んで何事か思案を始める。バイト代がどうのと、ぶつぶつ呟いているのが聞こえたが、口を挟むのも何なので、二人は黙っていた。
「あぁ、もうお昼ですね。お二人ともお先にどうぞ」
「二人とも、おいし〜ご飯食べて来てねッ。 食堂もイイけど、ちょっと疲れてるならジャンクさんのトコロがオススメかも」
「どうしてです?」
 謙治が聞くと、皐月は得意げに胸を張り、
「ジャンクさんのトコロはね、お料理にちょっと時間がかかるけど、体が欲しがってるモノをゼツミョーに用意してくれるんだよ♪」
 他にも、美咲ちゃんのつくるご飯は、おいしーけどちょっと気の弱いトコロがあるよねとか、志狼くんのご飯は、喜んでもらえると嬉しいって味付けだし、雫くんは、食べてくれ! っていう気持ちがイッパイ詰まってるとかかんとか。
 次から次へと、艦内名うての料理人たちの名前を上げてはその料理に隠された心理らしきものをあげていく。
 もういいから、と口を挟む余地すら見えず、隼人と謙治が目を白黒させていると、
「小動物の料理評論は無視して、休憩に行ってくれ」
 神無が無表情に言う。
「はあ……」いいんだろうか?
 とは言え、皐月が話を止める気配もなさそうだ。
「かまいませんから、行って来てください」
 弥生からも言われたので、それじゃあ、と二人は郵便部から出て行く。
 皐月の話は、いつの間にか、料理人から今の時期の旬のものについて、に変わっていた。
「黙れ、小動物」
 神無は立ち上がると、皐月の顔をがしっと掴む。そのまま、ぎぎぎぎと力を込めた。
「あぅぅぅっ!? かんっ、神無ちゃんっ?! ひたい! ひたいよぉっ!」
「額がどうした」ぐぎぎぎぎ。
「はぅ、おデコじゃなくれね、かほ、かほがひたいのぉっ」ギブ、ギブアップ!
 ぺしぺしと神無の腕を叩き、皐月は放してくれと賢明に訴える。
「あらあら、いつも思うけど、本当に二人は仲良しさんねぇ」
 作業の手を休めて、弥生はにこにこと笑っていた。皐月は「たすけてょぉ」と訴えているのが、弥生は微笑を浮かべるだけで動こうとしない。
 郵便戦隊のよくある日常の風景その2であった。


*****


 さて、隼人と謙治が休憩を終えて郵便部に戻って来ると、部屋内は無人であった。
「あれ? どこに行ったんでしょう?」
「トイレじゃないのか?」
 とりあえず、作業は午前の続きをすれば良いのだからと二人は座っていた席につく。
「おお、何だ。戻って来ていたのか」
 そこへ神無が戻って来た。手には携帯を持っているので、誰かと話をしていたのかも知れない。
「……ふむ。どうだろう? 気分転換に別の作業をしてみる気はないか?」
「別の作業?」
 隼人が首をかしげると、神無はそうだとうなずいた。
「と言っても、そんなに難しい作業じゃない。単に、サロン室のスクラップブックとそこに置いてあるスクラップブックを入れ替えてくれればいいんだ」
 彼女が指さした先には、大きめの段ボール箱が二つ並んでいる。中身をのぞき込めば、なるほどスクラップブックが詰まっていた。
「入れ替える物は決まってるんですか?」
 謙治が聞くと、神無はファイルを出して来て、回収印がない物はサロンにあるはずだから、上から順に回収して来てほしいと答えた。
「分かりました」
 その一方で、隼人は卯月専用台車を引っ張ってきて、段ボール箱を移動させている。
「結構重いからな。腰を痛めないように気をつけてくれたまえ」
「大丈夫だ」
 簡潔に応じた隼人は、ファイルを受け取った謙治と共に郵便部を後にした。
「あぁ、そうそう! 回収予定物を誰かが読んでいたりしたら、それは未回収で問題なしだ。読み終わるまで待つ必要はないぞ」
「分かりました」
 入り口の所からひょいと顔をのぞかせている神無にうなずきかえし、二人は再び歩き始める。
 サロン室での入れ替え作業は、順調であった。
 偶然サロン室を訪れた友人知人たちは必ずと言っていいほど、「何をしてるの?」と尋ねて来たが。
 一部の男子からは、郵便戦隊メンバーの働きぶりを聞かれたり、クリスマスの予定を聞き出してくれまいかと頼まれたりしたが(もちろん、断った)
 ……順調……だった。
 入れ替え作業が終わると、再びスクラップブック作りが待っている。
 3時にも15分の休憩を入れて、手紙を読んではスクラップブックに貼っていく、という作業を繰り返した。
 時折、手紙を出してほしいと窓口に来て、その度に「そんな所で何をしてるんだ?」とまた聞かれたりもしたが、まぁこれは仕方あるまい。
 そんなこんなで定時の5時。
「おつかれさまぁっ!」
 仕事が終わったことが、よほど嬉しいのだろう。皐月は満面の笑みをたたえ、万歳している。
「隼人くんも謙治くんも、おつかれさまあ」
「今日ほどうもありがとうございました。とても助かりましたわ」
 皐月と弥生に礼を言われ、二人は照れ臭さに視線を背けた。
「では、二人とも手を出したまえ」
「何ですか?」
 疑問に思いつつも、神無に言われるまま二人は手を出した。
「ん」
「何だこれ?」
 彼女が二人の手の上に置いたのは、封筒だった。そこらの文房具店で売っているような安っぽいお徳用封筒ではなく、もっと立派な封筒である。
「バイト代。何、余り物だから余計な気遣いは無用だ」
 神無は少年の肩をぽんぽんと叩くと、
「そろそろ迎えが来ている頃だろう。ま、うまくやってくれたまえ」
「は? 何の事だ?」
 ぐいぐいと背中を押されながらも、隼人は神無に軽くくってかかった。
「何、行けば分かることだ。考えるな」
「ふぁいっとぉっ♪」
 神無の後ろでは、皐月が面白そうに笑っている。弥生もにこにこと笑っていて、
「うまくいくと良いですね」
 なんて意味ありげなことを言っていた。
「どういうことでしょう?」
「さあな」
 郵便部から追い出された二人が、顔を見合わせて驚いていると、
「隼人くん! 謙治くん!」
 美咲の声が横から飛んで来た。そちらへ顔を巡らせれば、美咲と麗華が近づいて来るのが見える。
「なるほど。迎えというのは、このことだったんですね」
 謙治が小声でつぶやくと、
「何か言った?」
 麗華がたずねてくる。
「いえ、何も。それより、どうしてここへ?」
「隼人くんたちがボクたちに話があるらしいから、この時間に郵便部の前に来てほしいって言ってたって、神無さんが」
 一体何の用なの? 美咲が首をかしげた。
「何の用って言われてもな……」
 さて困った。もらった封筒を持つ手で、隼人が頬を掻く。
「あら、何なのそれは?」
 麗華が目ざとくそれを見つけた。見れば、謙治も同じ封筒を持っている。
「今日一日、郵便部の手伝いをしてまして、そのバイト代だと貰ったんですが……」
 彼女の質問に答えながら、謙治はそういえば中身を確認していなかったことを思い出し、封をあけた。
「……クリスマスイベントの参加チケットみたいですね」
「こっちもだ」
 隼人も封筒の中身を確認し、首を傾ける。
 こんなものをどうしろと言うのだろうか。
 しきりに首を傾げる男性陣の前で、女性陣二人はまさかと顔を見合わせる。
「謙治、ちょっとそれを見せてちょうだい」
「え? あ、はあ、どうぞ」
 麗華に言われるまま、謙治はチケットを差し出した。チケットを受け取った麗華は、美咲にも見やすいようにと、持つ位置を若干下へ下げた。
「麗華ちゃん、これ!」
 二人が持っていたのは、女のコ同士サロン室で話していた、五千組限定のクリスマスイベントのペアチケットだったのである。
「これが、バイト代ですって?!」
「あ、ああ。余り物だから気にするなと言ってたが……何なんだ?」
 麗華が驚く理由が、隼人には分からない。
「あのね、このチケット、発売開始30分で売り切れちゃったんだって」
 だから、手に入れたくても手に入るものではないらしいと、美咲が説明する。
「──なるほど。そういうことでしたか」
 神無と皐月と弥生の言葉が、頭の中でよみがえった。
 やられた、という気持ちがふつふつと沸き起こる。
「それで? あなたたちはこのチケット、どうするつもりなの?」
 どうもこうもなかった。
 こうなっては使い道は一つしかない。
 隼人と謙治は、お互いの意志を確認するようにうなずき合うと、
「行きますか?」
「チケット二枚で、四人、入れるんだろ?」
 素っ気ないと言ってしまえば、それまでだが、誘い主がこの二人ではこんなものかもしれない。
 美咲と麗華も互いにうなずき合うと、
「うん。みんなで遊びに行こうっ」
「この日は予定が空いてるし、ちょうどいいわね」
 こちらもまた、彼女たちらしい返事で、少年たちの誘いに応じたのであった。