オリジナルブレイブサーガSS 登場! 郵便戦隊!! イラスト:サイレント・S氏 |
電子郵便などが盛んに使われるようになったとはいえ、はがきや手紙が完全に使われなくなったわけではない。 たくさんの人間が集まれば、郵便事業に対するニーズも必然的に生まれてくる。 それを解消するため、ラストガーディアン内にも郵便窓口が設けられていた。 生活課に属する郵便部で働いているのは、女性ばかりの5人組。 白神葉月をリーダーに、赤沢卯月、青木神無、緑川弥生、桃井皐月の5人が、艦内の郵便業務を一手に引き受けていた。 人は、彼女たちを郵便戦隊と呼んでいる。 朝、艦内の廊下をがらがらとにぎやかな音を立てて進む一行がいる。音の正体は、段ボール箱が3つ4つ積まれた台車だ。それが5台、列をなして廊下を進んでいるのである。 「あたらし〜いあぁっさがきたッ♪」 先頭を行くのは黒髪を赤く染めた、ツインテールの少女、桃井皐月だ。彼女は郵便戦隊とあだ名される郵便係の中で最年少であり、一番小柄でもある。 「皐月〜、何でラジオ体操の歌なワケよ?」 一番大きな台車に、6つもの段ボール箱を乗せて押している赤沢卯月は、あくびをかみ殺しながらぼやいた。普段はキリッと引き締まっている顔も、朝の早い時間帯はやや緩みがちである。 「べっつにぃ〜。なんとなくだよ〜」 ソバカスの浮いた顔を後ろに向け、皐月は答えた。 「っつーか、黙れ。しゃべるな。小動物」 小声で青木神無が呻く。彼女は、台車の持ち手部分に覆いかぶさるようにして歩いていた。 「また、飲み過ぎたの?」 呆れ声と共にため息をついたのは、緑川弥生だ。 「お酒に強いんだか弱いんだか、はっきりしないんだから適当なところで切り上げるのよって、いつも言ってるのに」 「悪かったナ」 涙目を浮かべながら、弥生のお小言を神無は聞き流している。 「ほらほら、スピードが落ちてるわよ。急いだ、急いだ」 最後尾を歩く白神葉月の注意に、神無を除いた3人が元気の良い返事を返した。 郵便戦隊が自分たちの仕事場に到着すると、早速届いた荷物の仕分けが始まる。 「これは、神楽崎麗華さんの荷物。こっちは、空山ほのかさん……これは……連名ね」 配達伝票を見て、弥生はリストに宛て名を書き込んで行く。一つ書けば、段ボールの表面にマジックでデカデカと数字を書く。 これらの荷物は、 『1番、神崎麗華さん 2番、空山ほのかさん 3番、何月何日〇〇デパート発送分……』 という風に放送をかけて引き取りに来てもらうのだ。リストを書くのは、引き取りに来た者が番号を忘れた場合や、引き取りが終わった物、終わっていない物を管理するためである。 「いよぉっし」 ショートの髪にきりりとねじり鉢巻きをしめ、卯月は袖まくりをした。荷物を保管棚に移すのは彼女の役目なのである。 「よいしょぉっ」 仲間内では怪力娘と呼ばれたりする彼女は、軽々とそれらの荷物をかつぎ、棚へほうり込んでいった。 宅配便を整理している弥生と卯月から少し離れた場所では、葉月と神無、皐月が郵便物の仕分けをしている。 購買や食堂など、艦の運行に係わっている部署には、葉月が直接配達に行く。部署宛ではなく、個人宛の郵便物の場合は、宅配便と同じく放送をかけて取りに来てもらう(数が少ないからこそ可能な方法である) 「コレはこっち、コレもこっちで、コレもコレもそーだねぇ」 「〜〜〜だから、黙れ。しゃべるな。小動物」 まだ顔色の悪い神無が、皐月に殺気を向けた。向けられた当の本人はというと、毎朝のことだから慣れてしまっているらしく、 「神無ちゃんこそ、いーかげん、学習したらあ?」 などと小憎たらしい反論を口にする。 「毎日毎日飽きないわねぇ、ホント」 頬にかかる長い髪をかきあげ、葉月はため息をついた。 「葉月ちゃんのソレも毎日だよ〜」 「お前こそ、飽きないな」 皐月と神無からのダブルツッコミに、葉月はまたもや力なくため息をつき、 「誰がそうさせてるのよ?」 恨めしげにボヤく。 窓口業務の開始は、午前9時からである。とは言え、窓口が開いたからといってすぐにお客が来るわけではない。彼女たちは、仕分け作業を続けながら、お客さんから声をかかるのを待つ訳である。 宅配便の仕分けが終われば、卯月と弥生の二人も郵便物の仕分け作業を手伝う。 引き取り依頼の放送をかけるのは、郵便の仕分けが終わってからだ。このころになると、飲み過ぎで青い顔をしていた神無も、本来の調子を取り戻し始める。 「顔洗って来る」 ぼ〜っとした顔のまま、神無がそう言って席を立つと、スイッチが切り替わる前触れだ。 顔を洗って戻って来た彼女は、「きぼちわるぃ〜」と今にも吐きそうな顔色の悪さをしていたとは思えないぐらい、シャキッとしているのである。 「ありゃあ、詐欺だ」というのは、卯月の弁であった。 スイッチが切り替わった神無は、ベリーショートの髪をきれいに撫でつけ、颯爽と歩く。何でもてきぱきとこなし、やることに無駄がない。だが、口の悪さはあまり変わらない。 顔を洗って戻って来た彼女は、 「放送をかけるぞ。いいか?」 三白眼をきろりと動かし、仲間たちの意見をたずねた。 スイッチが切れている時と入っている時のこのギャップの差を知るのは、戦隊の隊員たちだけである。(台車にもたれ掛かるようにして歩く彼女と、今の彼女がイコールで結びつかないらしい) 「もっちろん、いーよッ!」 仲間たちを代表して皐月が、了承の言葉を口にした。神無は満足そうに頷いて、放送用のマイクに手を伸ばす。 放送が始まると、葉月は各部署へ郵便の配達に行く。配達がてら、郵便物を預かって来ることも少なくない。荷物なら後から、卯月が取りに行くことになっている。 「さて……」 彼女たちの仕事はこれからが本番だ。ラストガーディアンに届けられる郵便物の八割近くは、全国から寄せられた勇者たちへの応援メッセージや感謝の手紙なのである。 彼女たちは、これらを一通一通開封して、スクラップブックにはりつけていくのだ。完成したスクラップブックは、サロン室に置かれており、いつでも誰でも見ることができるようになっている。 「今日も一日がんばるかあっ!」 卯月の気合の一声に呼応するように、残る3人も「おうっ!」と気合十分の声が上がった。 ちきちきちき。 「くすくすくす」 カッターの刃を出しながら、小さく笑うのは弥生である。 爽やかな朝の雰囲気は、完全にぶち壊し。 彼女の回りだけが、異様に暗くなっていく。 緑川弥生という女性は、一部男性陣からは和み系と噂されているらしい。顎のラインで切り揃えた栗色の髪。やや垂れ目で、右の口元にはホクロが一つ。おっとりとしていて、近所の優しいお姉さんといったカンジなのだが─── 「あァ、この音。何度聞いてもス・テ・キ」 カッターの刃を出すときに聞こえる、『ちきちき』という音が大好きという、変わった嗜好の持ち主なのであった。 「弥生〜、『ステキ』なのは、分かってるから仕事してくれ」 「はあい」 卯月に言われ、弥生は「くすくす」と小さく笑いながら、カッターで封筒を開封していく。 弥生が開封し、封筒とその中身には、3人がかりで番号をいれて行く。この時、封筒は封筒、中身は中身でちゃんと分ける。 時々雑談を交わしながら、作業を続けているとコンコンと窓口がたたかれた。 振り返ると、背中に情熱の赤を背負った、ドリームナイツの神楽崎麗華が優雅に微笑んでいるのが見える。 皐月は大慌てで立ち上がり、窓口へ向かった。まるで鼻先ににんじんをぶら下げられた馬のようだとは、神無の弁である。 「麗華さん。おはよーございますぅ」 うっとりした表情で、皐月は麗華に頭を下げた。窓口に近づくと分かったのだが、彼女の背後に見える情熱の赤は、荷物持ちとしてついて来たカイザードラゴンのボディーカラーだったようである。 「おはよう」 窓口にダッシュで駆け寄って来た皐月に、麗華は苦笑を向けた。 「カイザードラゴンさんも、おはよーございま〜す」 《おはようございます、皐月様》 朝っぱらからのハイテンションぶりに、さすがの彼も少々驚いているようである。 「一番の荷物、お願いできるかしら?」 「もちろんですぅ。卯月ちゃん、一番おねがぁい」 「はいよ」 後ろに声をかけた後、皐月は手元のリストを麗華の前に置き、受け取りのサインを頼む。麗華がサインを書いている間に、皐月は作業室のドアを開けた。 「ほいよ、あんたの荷物」 「ありがとう。カイザー」 《心得てございます》 もともとそのためについて来たのである。カイザードラゴンは、麗華に求められるまま卯月から荷物を受け取った。 荷物運搬用の台車を窓口で借りることもできるのだが、返しに来る面倒を考えれば、今回の麗華のように荷物持ちを連れて来るか、自力で持って帰るかのどちらかしかない。 「あ、そーだ、麗華さんっ」 「何かしら?」 「今度のお休みに、この間いってたパン屋さんを探しに行こうと思ってるんですぅ」 昼下がりの午後、たまたま読んでいたタウン雑誌の特集が『評判のパン屋さん』だったのである。それに紹介されていたパン屋のひとつに、車で移動販売をしているというお店が出ていたのだ。移動ルートはマル秘扱いで、雑誌にも紹介されていなかったのである。 「へぇ、そうなの」 お店に行けば買える普通のパン屋と違って、捜し出さなければ買えないという所にひかれ、今度の休みにでも探しに行ってみようか、などと話していたのだ。 麗華も、皐月の食道楽は知っていたから、これは期待できるかも知れないと、笑みを浮かべる。 「楽しみにしてるわ」 「はいっ! 吉報を待っててくださいっ!」 ぐぐぅっと両の拳を強く握り締め、皐月は力いっぱいうなずき返していた。 麗華は、くすくすと笑い、 「頑張ってね」と激励を残して、去って行く。 《それでは、失礼いたします》 「ご苦労さーん」 ペコリと一礼をしてから、主人の後に続く鋼の竜を、卯月は見送った。 「お前、ほんッとうに麗華のこと好きだな」 「麗華さんは、あたしの目標なのよッ」 胸の所で両手を組み、皐月は麗華の歩いて行った方向をうっとりと眺めている。 卯月は、「あ、そ」と素っ気なく答え、肩をすくめてみせた。 「何をやってるの?」 葉月が帰って来た。 彼女は軽くウエーブのかかったロングヘアをうなじの所で一つにまとめ、大きめの丸いメガネをかけている。物腰の柔らかな知的美人は、部下二人に疑問の目を向けた。 「麗華が荷物の受け取りに来てたんだ」 「なるほどね」 それだけで理由を察した葉月は、軽く皐月の頭を小突き「仕事にお戻りなさいな」と、小さな説教。皐月は「はあい」と返事を返し、作業室へ戻って行った。 配達から葉月が戻って来ると、バラした中身をスクラップブックにはっていくという作業が始まる。これは主に皐月と卯月が中心となって作業を進めていく。神無と葉月は、封筒に書かれている差出人の住所のコンピュータ入力を始めていく。 基本的に、学校や幼稚園など団体からもらった手紙には返事を出している。返事はラストガーディアン所属勇者一同という名前で出し、文面も用意した幾つかのパターンの中から、ふさわしいものを選んで出してあった。 ただ、勇者たちは心優しい者が多いため、「このコにお返事を書きたい」という申し出や、「一緒に送ってくれた似顔絵のお礼を言いたい」という声も上がってくる。 そのニーズに答えるため、彼女たちは便せんと封筒に番号を振っていた。 宛て名が未記入の封筒を窓口に持って来てもらって、「A12の16番の人に送ってください」と隊員に伝えてもらう。そうすると、隊員の方で調べて、返事を相手に送っておくという仕組みになっているのだ。 ちなみに、似顔絵は、描かれている勇者に直接届けている。スクラップブックにはりつけられているのは、縮小コピーだ。複数の場合は、不公平にならないよう、原寸大カラーコピーを渡し、原紙は戦隊が保管している。 「お、これなんかいいんじゃないか」 「どれ? あら、いいわね。絶対いいわよ」 卯月が差し出した便せんを、弥生は作業を中断して受け取った。 それは、先日起きた北海道での一件の時に助けてもらったという女のコからのものである。文面には助けてもらったお礼と、その時に差し出したラベンダーの花が、北海道事件の直後に行われたチャリティーコンサートに出演した勇者たちの胸に飾られていたことがとても嬉しかったと書いてあった。 「あ〜、イイよ。イイ! 絶対採用!」 弥生からさらに手紙を受け取った皐月は、コンピュータの画面から目を離せない葉月と神無にも内容が分かるように、文面を読み上げる。 「へぇ、いいじゃない」 「それは……採用するしかないだろうな」 葉月と神無もうなずく。 「でしょ、でしょ? 絶対採用だよね!」 なおもしつこく皐月が言うので、 「煩い。喋るな。小動物」 神無からのキツイ小言が飛んで来た。 「フ〜ン、だ」 これもいつものことなので、皐月は全くヘコまない。便せんを卯月に返し、その後でピンクいろの付箋も彼女に渡した。 卯月は、返してもらった便せんをスクラップブックにはりつけ、インデックスかわりにピンクいろの付箋をはりつける。 この付箋に何の意味があるのかと言うと─── 土曜日の昼下がり。ラストガーディアンの乗務員のおよそ半数が耳を傾けるという、ラジオ番組がはじまる。 『『とどけっ!』』 『ぼくの!』 『わたしのっ!』 『『心の、メッセージッッ!!』』 郵便戦隊の5人が交代でパーソナリティをつとめるこの番組。内容は全国から寄せられた勇者たちへのメッセージを、読み上げていくというものだ。 勇者と一口に言っても、10メートル近いロボットから小学校低学年、はたまた未来や異世界からやって来た者まで、実にさまざまだ。 届けられた手紙が、サロン室で自由に閲覧できるようになっているとはいえ、中にはサイズの関係で見たくても見られない者がいるのである。 そういった者たちのために、郵便戦隊が毎週土曜日に、届けられた手紙の一部を電波に乗せて読み上げているのだ。 はじめはロボット向けに放送されていたこの番組も、しだいに忙しくてサロン室へ閲覧しに行くことができない人なども耳を傾けるようになった。 『今週もたあっくさんのお手紙が全国から届きましたあっ!』 『その前に名を名乗れ、小動物。今週は、青木 神無と──』 『桃井 皐月がお送りしまあっす!』 まずは、今週最初のお便り。皐月がそう言ってから読み始めたのは、北海道から送られて来た、あの女のコの手紙である。 郵便戦隊は、ラストガーディアンに送られて来る膨大な数の手紙と日夜戦っているのである!!! |